タイム技研株式会社




プロダクト開発ストーリー Vol.02

電動車いす編

プロダクト開発ストーリー Vol.02
タイム技研が開発を手掛けた製品の、
知られざるエピソードをご紹介。
数々の課題をクリアし誕生した製品には、
エンジニアたちの「ものづくり」に対する
熱い思いとドラマが込められています。

「なんとしてでも、完成させたい!」
その強い気持ちで
走り続けた3年間でした。

エレクトロニクス事業部

伊賀芳和
YOSHIKAZU IGA

密閉構造による基板の発熱に、試行錯誤の日々


――伊賀さんは、モーターなどの電力供給に関わる電子回路の設計・開発を手掛ける「パワーエレクトロニクスチームとして、電動車いすを担当されたそうですね。
伊賀 はい。電動車いすは、体力低下等により徒歩での外出が難しい方や、運転免許証を返納した高齢の方の移動手段の一つとして使われています。お客様であるメーカーからのご要望は、充電機能を内蔵型にし、かつ軽量化したいというものでした。これまでにも充電器が内蔵されているタイプの製品はあったのですが、かなり重いトランス(変圧器)を使用していたので、それに代わる充電回路を開発することが求められました。

お話をいただいたとき、電動車いすの外観そのものはすぐにイメージできたのですが、その内部構造がどうなっているのかは、まったく想像することができませんでした。今までそういう機会がなかったので……。ですから、お客様から現行機種の電子回路基板を一式いただいて、構造を分析することから始まりました。
――設計・開発の段階で、特に苦労した点はどんなことでしょうか。
伊賀 軽量化については、トランス自体がかなりの重さを占めていたので、トランスをはずして代わりの回路を入れることで大幅に改善できると感じていました。充電部分も新しく回路を作ることになったのですが、苦労したのは回路そのものの設計よりも、充電することで発生する熱をどう処理するかでした。

この電動車いすの基板は座席の下に入れているのですが、雨が降ったら濡れる可能性もありますから、基板は防水処理を施して密閉しています。すると、どうしても内部に熱がこもってしまうのです。これがやっかいでした。しかも、走っているときはモーター部分も熱くなりますし。

どのくらい熱くなるかがイメージしづらいと思いますが、たとえば、スマートフォンの充電器は2アンペアくらいです。電動車いすは、24ボルトで電流は10~20アンペアなので、スマートフォンの約10倍です。
――携帯電話を充電すると本体が熱くなるときがありますが、あの10倍もの熱を出しているのですね。
伊賀 常に一定ではないですが、とにかくこの熱を逃がすために、組み立て部分に温度を測るための装置を付けて測定したり、サーモグラフィーで撮影したりしながら、基板の構造を何度も作り直しました。
アイデアを一つひとつ試していって、最終的には発熱する部品の熱を、板金に逃がすという方法に落ち着きました。ほかにも、外から冷却用の風を送り込むための羽型の加工なども行っています。
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安全が求められる製品だからこそ、厳しい規格にも挑む


――基板のサンプルを拝見しましたが、板金も部品側を持ち上げて空間を作っていたり、あえて部品と板金を接触させたりと、随所で異なった工夫をされていて感動しました。熱の問題もクリアし、開発は一気に進みましたか?
伊賀 それが、「これですべて解決!」とはいきませんでした(笑)。
電動車いすのように公道を走行する製品には、安全性を保つための厳しい規格が必ず設定されているのですが、ノイズに関しては当初、そのラインを上回ってしまったのです。
製品自体がノイズをまき散らしてはいけないし、受けたノイズによって変な動きをしてしまうなんてことは、絶対に許されません。電動車いすが工業地帯を通る可能性だってありますから、強い電波が入っても動作に影響がないような設計が求められます。
――ノイズの発生原因は何だったのでしょうか?
伊賀 ノイズは、部品だけでなく線の引き回しにも左右されます。ですから、「これが原因」とは断定しづらいですね……。構造自体でも影響が出ますし、このフレームだとOKだけれど、こっちのフレームはNGなど、材質や形状によっても変化します。
どんな要因に左右されるかわからないので、作ってみて評価するしかなく、こちらも実験と検証の繰り返しでした。
この開発には約3年かかっているのですが、そのうちの2年くらいは、熱とノイズの課題解決に費やしていたと思います。
――それだけ長期間となると、焦りや不安を感じることもあったのでしょうか。
伊賀 それはありませんでした。量産体制にもっていくまでに5回も試作していますが、お客様も決して「もういいです」とは言わず、ずっと一緒に開発の道のりを走ってくださいました。
だからこそ私も、「なんとしてでも、この電動車いすを完成させたい!」という強い気持ちになっていましたね。

とはいえ、5回目の試作で課題をクリアしたときには、「これでやっと、世の中に出すことができる」と安堵感でいっぱいでした(笑)。同時に、「自分が担当した製品を世の中で使ってもらえる」ということに対しては、まさに感無量といった感じです。
――伊賀さんにとって、「ものづくり」とはどのようなものですか?
伊賀 「新しいものを作り出し、人を幸せにする」ことでしょうか。今回の電動車いすに関しても、これを使用することで自力歩行での外出が難しい高齢者の孤立を防ぎ、体力低下等に左右されないライフスタイルを提供することができるのではないかと信じています。

私自身も「ものづくり」を楽しんでいますし、量産した初品の電動車いすをチームの先輩と一緒に直接お客様へお届けしたときには、担当の方から感謝の言葉をかけていただきました。そこで初めて実感がわいたのですが、あのときの気持ちを、これからもずっと忘れずにいようと思っています。
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